◎シリーズ 優良企業の流儀
●オーベルジュ ドゥ オオイシ フランス料理店
緻密な業績管理と巧みな戦略で
幾多の危機を突破し筋肉質の会社に
豊かな自然と瀬戸内海を望む絶景が人気の「屋島」。その美しい自然のなかに、オーベルジュ ドゥ オオイシはひっそりと佇む。社長であり、シェフである大石正邦氏は巧みな戦略を通して、幾多の危機を乗り越えてきた。その秘訣は、月次決算を通じた緻密な業績管理にある。
香川県の北部に位置する、屋島。頂上の水平な地形が建物の屋根を彷彿とさせることから、この地をそう呼ぶようになったという。屋島は高松市の市街地から車で15~20分ほどの距離にあり、源平合戦の史跡などの名所が点在していることから、日々多くの観光客がこの地を訪れている。もともとは瀬戸内海に浮かぶ離島だったが、江戸時代に行われた大規模開拓の末、陸続きになったと言われている。
「屋島は私が生まれ育った場所で、ここに店を構えることはかねてからの夢でした」
こう語るのはオーベルジュ ドゥ オオイシの社長であり、シェフの大石正邦氏。経営者として会社をけん引する傍ら、今なお厨房に立ち、日々訪れる顧客に向けて上質なサービスを提供している。特に地元の食材をふんだんに使ったフレンチは、多くの顧客を魅了してやまない。
大石正邦社長と多田羅秀治税理士(左)
株式会社オーベルジュ ドゥ オオイシ
創業:1988年11月
所在地:香川県高松市屋島西町65
利用システム:FX2クラウド
BAST優良企業の定義 | |
1 | 書面添付の実践 |
2 | 中小会計要領への準拠 |
3 | 限界利益額の2期連続増加 |
4 | 自己資本比率が30%以上 |
5 | 税引前当期純利益がプラス |
6 | TKC自計化システムでの月次決算の実施 |
もともとは高松市の繁華街に店を構えていたが、1998年に大石社長の地元である屋島に移転した。「オーベルジュ」と名乗っていることからも分かるとおり、レストランの隣には宿泊施設が併設されている。客室からは瀬戸内海を一望できるなど、ロケーションも抜群だ。
料理人として独立した当初から、フランスへの視察旅行を定期的に行っていた大石社長は、フランスでは宿泊施設を備えたレストランが郊外に多く出店しており、いずれも繁盛していることを知る。本場のレストランを訪ね歩くなかで、オーベルジュというスタイルは日本の地方都市、特に屋島との親和性が高いと考えた大石社長は、店舗の移転にあわせて宿泊施設を建てることを決断した。
とはいえ、既述のとおり屋島は高松市の中心から離れたところにある。県内有数の観光地ではあるが、「立地が飲食店経営の行方を左右する」という業界の常識からすれば、郊外への移転によって顧客が離れてしまう可能性が高い。実際に、「集客に苦戦するのでは……」と懸念する声もあったが、当の大石社長は「上質な料理やサービスを提供し続けることで、顧客の離脱防止と新規顧客の獲得を実現できる」と判断。店舗移転と宿泊施設の建設を着実に進めていった。
大石社長の読みは見事的中。店を郊外に移し、宿泊施設を併設したことで、大阪や神戸といった県外からも多くの顧客が訪れるようになった。「当店には料理はもちろん、スタッフのファンだというお客さまも多くおられるので、移転後も客足が遠のくことはありませんでした」と、大石社長は話す。
地元の食材を使用した本格フレンチが売り
宿泊施設からは瀬戸内海を一望できる
以来、約30年にわたって屋島の地で営業を続けてきたが、そもそもなぜ拠点を繁華街から郊外に移したのだろうか。
それは冒頭で大石社長が語ったように、地元に店を構えたいという〝夢〟が背景にあるが、実はもう一つ、店を移転せざるを得ない理由があった。毎月の家賃が経営を圧迫していたのだ。
大石社長は当時を次のように振り返る。
「以前は繁華街にあるビルの最上階に店を構えていました。好立地で店内も広々とした良い場所だったのですが、その分、家賃も高かった。毎月の家賃に加えて、材料仕入れや従業員の給与、水道光熱費などを差し引くと、利益はほぼ手元に残らない状態でした」
手ごろな値段で本格フレンチを楽しんでほしいという大石社長の思いから、料理の提供価格も一般的なフランス料理店と比べて安価に設定。実際、集客も上々で売り上げも十分に上がっていたが、各コストが利益を引き下げた。
「経理は私が担当していたので、毎月の試算表を通してどの経費がどれくらい発生しているかをしっかりと把握していました。最新業績をもとに利益率を改善するための策をいろいろと打ちましたが、一進一退の状態が続いたので、思い切って店舗の移転と高付加価値路線へのシフトに踏み切りました」
と大石社長が説明するように、移転前に比べて、ランチ、ディナーの価格をそれぞれ2倍近く引き上げた結果、「落ち着いた雰囲気のなかで上質な料理を味わいたい」「瀬戸内海を眺めながらゆったりとした時間を過ごしたい」という顧客のニーズを取り込み、客単価が上昇。毎月の売上高も拡大した。
また、家賃の支払いがなくなったことで、経常利益率が大幅に改善。自己資本比率も向上するなど、〝筋肉質〟な経営基盤が構築された。新型コロナ感染症が流行した際には、休業や時短営業を余儀なくされたが、手元資金をしっかりと蓄えていたこともあり、難なくコロナ禍を乗り越えたという。
宿泊施設からは瀬戸内海を一望できる
「従業員には『1年間休業したとしても、みんなに給与を支払えるだけのキャッシュはあるから安心してほしい』と伝えました。日ごろから業績を注視し、自社の状況を的確に把握していたからこそ、不測の事態にも浮き足立つことなく、どっしりと腰を据えて対応できたのだと思います」(大石社長)
そんな同社の経営をサポートしているのが多田羅秀治税理士だ。同社では多田羅税理士の勧めでTKCの会計システムを導入。德田美砂子監査担当が同社を毎月訪問し、最新業績や予算の進捗状況などを確認しながら意見交換する場を設けるなど、月次決算体制を確立している。
多田羅税理士は言う。
「会社が存続発展していくには黒字決算を継続する必要があり、そのためにも経営者自身が自社の業績をこまめにチェックし、それが前年同月や計画と比べて良いのか、悪いのか、悪いとしたら何が原因なのかを追究する必要があります。自社の業績に関心を持つこと、業績をもとに利益を確保するための打ち手を考えることは、会社経営の基本の〝キ〟です」
月次巡回監査では最新業績をもとに今後の対策を検討。
右が德田美砂子監査担当
冷たい北風が肌を突き刺す冬のある日。大石社長と多田羅税理士、德田監査担当が同社の応接室に参集していた。月次巡回監査である。3人がパソコンに表示されている《365日変動損益計算書》に目を向けるなか、德田監査担当が口火を切る。
「今月は前月に比べて売り上げが伸びている一方、仕入単価も上がっているので、限界利益率はほぼ横ばいで推移しています。材料費が軒並み高騰していますが、今後の対策として何か考えていますか」
このように問われた大石社長は、「コロナ禍以降2回値上げをしたので、これ以上の値上げは考えていない。収益の柱になるような新商品を展開し、卸売業者が割引価格で提供してくれるときに食材をまとめ買いすることで、利益をしっかり確保していきたい」と返答。その後、予算の進捗状況と今後の展望などについてやり取りを交わし、この日の監査は終了した。
このように、未曽有のコスト高騰は同社の経営を直撃しているが、大石社長は〝攻め〟の姿勢を崩さない。今後は、新しい宿泊施設やブドウ畑、ワイナリーの建設を予定しており、収益の柱として育てていきたいと意気込む。
◉バンカーズアイ |
高松信用金庫
香川県高松市瓦町1-9-2(本店)
香川県高松市高松町3008-2(屋島支店)
屋島支店支店長 小笠原孝治
業務推進部副長 坂東知樹
当庫は香川県全域を営業エリアとして、地域経済の発展と活性化を念頭に、中小企業の伴走支援に取り組んでいます。金融支援はもちろん、販路拡大など、中小企業が抱えている課題の解決に向けたサポートを通して、中小企業の活躍を後押ししています。
オーベルジュ ドゥ オオイシさまは30年近くお付き合いしている大切なお客さまです。オーベルジュ ドゥ オオイシさまが店舗を移された当時は、屋島は今のように人が多く集まるような場所ではありませんでした。それでも、当庫が融資を実行し続けることができたのは、大石社長が客単価や予想売上高、予想利益などをしっかりと算出し、それを事業計画に反映された結果だと推察します。融資審査においては、経営者自身の意欲や情熱も判断材料になるので、大石社長が移転に懸ける思いを、当庫の担当者に熱を込めて説明されたのではないでしょうか。
大石社長は自社の業績を積極的に開示されています。具体的には、「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)※で、決算書をデータで提供いただいています。多田羅秀治顧問税理士のお墨つきを得た、信ぴょう性の高い財務データをタイムリーに提供いただいているので、当庫ではオーベルジュ ドゥ オオイシさまの業況を適時かつ正確に把握するとともに、必要な支援策を迅速に打つことができています。
当庫としても、決算書を適時・正確に開示する大石社長の姿勢は素晴らしいと考えています。
小笠原孝治支店長
坂東知樹氏
※TKCモニタリング情報サービス(MIS)…TKC会員事務所が毎月の巡回監査と月次決算を実施した上で作成した月次試算表、年度決算書などの財務情報を関与先企業からの依頼に基づいて、金融機関に開示する無償のクラウドサービス